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“循環型マーケットデザインカンパニー”オークネットが支援 サステナビリティと収益化の両立を目指すアパレル二次流通支援サービス「Selloop(セループ)」【AILイノベーションノートVOL.12】

AIL編集部
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 会員企業様のイノベーティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」。取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきます。

 第12回でご紹介するのは、1985年に世界初のリアルタイム中古車オンラインオークションをスタートさせ、二次流通の専門ノウハウや流通ネットワークを構築しながら、流通関連サービスを幅広く提供してきたオークネット。2021年7月より、大手通信販売「ベルメゾン」を運営する株式会社千趣会との共創事業として、衣料品を中心とした宅配買取サービス「kimawari fashion(キマワリファッション)」を開始。約1年間のテスト運用を経て、2022年11月から正式ローンチしています。

 また、2021年に一次流通領域を中心に事業を展開するメーカーや小売企業を対象に、顧客関係構築を支援する新事業として、二次流通への参入支援サービス「Selloop(セループ)」を、同社子会社ストラテジックインサイトを通じてスタート。国内の二次流通市場の現在地と、「Selloop」が提供するバリューや今後の展望について、「Selloop」運営の中心メンバーである長谷川 優氏にお聞きしました。

 

長谷川 優氏
株式会社オークネット
商品サービス戦略室 兼 株式会社ストラテジックインサイト マネージャー


はせがわゆう●1995年、埼玉県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒。2018年に株式会社オークネットに新卒入社。デジタル機器の海外顧客向けオークションの構築・運営、デジタル機器のリユース事業立ち上げ支援、家具領域におけるリユース事業立ち上げの検討/実行支援等を担当。

 

オークネット 公式サイト https://www.aucnet.co.jp/
「Selloop」サービスサイト https://selloop.jp/
「Selloop」公式note https://note.com/jolly_beetle845/
「Selloop」のお問い合わせはこちら

>>>その他のイノベーションノートトピックはこちら<<< #AIL編集部独自取材

 

二次流通ビジネスにおける全過程を支援する「Selloop」のサービスイメージ

長年の二次流通事業で培われたノウハウで描く アパレル二次流通の成長線

オークネットが展開する二次流通事業・サービスの全体像と強みについて教えてください。

長谷川氏:

 オークネットは1985年の創業以来、中古車、中古バイク、中古デジタル機器、ブランド品、花き、中古医療機器など、幅広い商材を取り扱うB2B流通プラットフォームを運営しています。「マーケットデザインで価値をつなげる。」というステートメントのもと、業界や商材に沿った最適な二次流通市場を構築し、以下二つの独自の強みを活かした事業を展開しています。

 オークネットの強みの一つは、情報の信頼性です。リユース品は一点一点の状態が異なるため、検査・検品による正しい評価が重要です。オークネットでは独自の検査体制を確立しています。また、第三者視点の検査により、中立公正な検査を実施しています。特に、ブランド品の真贋鑑定など、アパレルリユース市場に必要な情報の信頼性を担保する仕組みも独自に構築しています。

 もう一つは、長年の経験から培ってきた二次流通事業の運営ノウハウと最適なシステムです。オークション運営によって積み上げてきたノウハウと、時代を先取りしたテクノロジーを採用したITオークションを提供しています。商材や事業モデルに合わせた最適なサービスを提供しています。

グローバルな成長性からも見逃せない二次流通市場ですが、国内における現状を貴社ではどのように捉えていますか?

長谷川氏:

 アパレル業界全体の大量廃棄問題やサステナブル意識の高まりから、多様な企業が二次流通事業へ参入するケースが増えていますが、オークネットではいくつかのビジネスポテンシャルがあると考えています。

 まず、国内における二次流通市場は、顕在市場規模と比較しても遜色ない規模であり、さらに個人宅に眠る「隠れ資産」を加えると、潜在市場規模は数10兆円ともいわれています。また、二次流通では、リユース品の回収や買取時に還元ポイントを発行し、次なる購入機会を創出することができますし、新たな購入選択肢にリユース品が加わることは、価格面の有利性や商品選定の幅を広げることから顧客満足度の向上が図れる、といったポテンシャルがあると考えます。実際に、一次流通企業(メーカーや小売企業)からの弊社宛ての問い合わせ件数も数年で倍増しており、「Selloop」を通じたユーザーの反響も非常に大きいことから、企業のみならず、個人顧客からのリセールサービスへの注目も高まっているという実感があります。

企業の参入課題に沿ってカスタマイズソリューションを提供する「Selloop(セループ)」

「Selloop」公式サイト

 

「Selloop(セループ)」について、サービス概要と立ち上げ経緯、そして、その過程で見えたアパレル業界の課題があれば教えてください。

長谷川氏:

 「Selloop」は、顧客流出や購買機会の減少といった課題を抱える企業や、二次流通領域への参入を検討する企業を対象に、専門的なリソースや知見を提供し、ビジネス参入を戦略的にサポートするサービスです。従来のRaaS業態では(注1)、決められた型のサービスや機能を提供することが多いですが、「Selloop」では、伴走型のサポートを重視し、企業毎に最適なソリューションを構築します。そのため、要望や課題に応じたコンサルティング提案から、専門システムの提供や運営のBPO(注2)までを一貫して支援しています。

 「Selloop」の立ち上げのきっかけは、サステナビリティとビジネスをどのように両立させるかという課題によるものでした。特にアパレル業界では、サステナビリティの側面だけでなく、収益化を目指し二次流通事業を模索する企業がほとんどです。その反面、二次流通に関する専門的な知見や実機能の不足が課題でした。特に、ユーザー体験の設計、買取プログラムの導入に伴う再流通の仕組み作り、トレーサビリティといった課題に直面する企業が多く、それらを専門的にサポートし、二次流通サービスを共創していくことが「Selloop」の役割だと考えております。


(注1)RaaS(Resale as a Service、リセール・アズ・ア・サービス)とは、リセールプラットフォームをブランドや企業に提供する取り組みやプラットフォーマーを指す
(注2)BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、企業活動における業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託すること

リユース効果を可視化する「kimawari fashion」で新たな顧客体験と循環を

貴社の二次流通事業のノウハウをアパレル業界で活用した事例にはどのようなものがありますか?

長谷川氏:

 「Selloop」の立ち上げ以前より、大手通販「ベルメゾン」を運営する千趣会と、衣料品を中心とした宅配買取サービスに関する共創について話を進めており、「kimawari fashion(キマワリファッション)」を立ち上げました。これは、「ベルメゾン」のユーザーが不要となった服、靴、鞄などのファッションアイテムを段ボールに詰めて送ると、オークネットが査定を行い、「ベルメゾン」で使えるポイントや現金がユーザーに還元される宅配買取サービスです。

 サービスの運営は、両社の強みを活かした役割分担体制をとっています。千趣会ではサービスのコンセプト設計、ランディングページ作成、プロモーション、ユーザー窓口などを担当し、オークネットではサービスの基盤となる買取・下取りの機能や環境貢献度の算定などを担当しています。

 2021年7月にパイロット版をリリースし、両社が密接に連携しサービス設計を段階的に進め、約1年間のテスト運用を経て、2022年11月に本格的な展開を実現しました。この当社の担当役割の部分が、現在の「Selloop」の提供機能にあたります。

千趣会とオークネットによる共創事業「kimawari fashion」

 

「環境貢献度の算定」というキーワードがありましたが、どのような項目ですか?

長谷川氏:

 リユース品の流通によって新規生産や廃棄を抑制する効果を「削減効果」として算出し、メールにてユーザーにフィードバックしています。例えば、「樹木◯本分の資源を節約できました」というように、極力分かりやすい形で申込後の削減効果をフィードバックし、ユーザーに社会貢献を実感していただけるようなシステムを導入しています。この機能は「Selloop」でも提供しています。

なるほど。そうした環境貢献度の提示も含め、「kimawari fashion」を実際に利用するユーザーの反応やリユース成果はいかがでしょう。

長谷川氏:

 「kimawari fashion」は2022年11月から本格的に展開したサービスですが、開始一年で申込件数は5万3,000件ほどに上り、今年の2月には10万件を突破しました。申込成約率は93.2%、リピート率は30%と好調です。今年に入ってからも毎月1万件を超える申込を継続的にいただいており、費用対効果も実感しています。既存・長期会員は勿論ですが、休眠顧客の掘り起こしにも有効だと捉えています。

 利用ユーザーからはさまざまな反響がありますが、特筆されるものとしては「大事に使ってきた衣類やまだ使えるものを捨てるのは心苦しいので、こうした取り組みは非常にありがたいです」といったお声で、回収した段ボールにお客様からの手紙が同封されていることも度々あります。他には、「ノーブランドでも一定価格で買取してもらえるのが嬉しい」「ポイントもしくは現金と還元方法が選べるのが便利」といったお声をいただいています。

「kimawari fashion」で回収した衣服は、どのように循環させているのでしょうか。

長谷川氏:

 弊社独自のネットワークや取引システムを通じて、最適な価格と販路で商品を流通させています。オークネットでは、国内外含め60カ国以上、約3万8,000社の会員企業を保有しており、こうしたグローバルな流通ネットワークも大きな強みの一つです。

 また、企業が二次流通事業を導入する際の大きな課題に、再流通ルートや販路の構築があります。買取対象によっては品質も多様であるため、すべてを自社の顧客へ再販するとなると難しい場合がありますが、「Selloop」では、販路の透明性やトレーサビリティを担保しながら効率的に衣服を循環させることが可能です。「kimawari fashion」においても、買取商品がどのように流通し、リユースまたはリサイクルされているかを開示しています。

循環するファッションを 「Selloop」が見つめる未来

「Selloop」事業を支えるメンバー。左から大槻氏、長谷川氏、政久氏

 

他方で、自社のブランド製品に限り回収し再販を行う「ブランドリセール」については、現状をどのように捉えていますか?

長谷川氏:

 ブランドリセールの取り組み自体は良い取り組みだと思いますし、実際にオークネットにも問い合わせが寄せられます。一方で、収益化のハードルに頭を悩ませる企業や、自社ブランドに限っていた買取の対象枠を他ブランドへ広げたという事例もありました。というのも、一旦回収されたリユース品は、二次流通市場における価値に左右される側面があります。また、回収した自社製品がすべて高品質ということはなく、再販できる品質まで修繕するリソースやコストを含めると、経済面をかなり圧迫する可能性もあります。そのため、再流通には手をかけずに、リユース市場を活用するという手段が有効な場合もあります。

 一方で、「kimawari fashion」の場合は「ベルメゾン」が独自の会員基盤とポイントプログラムを持っているため、自社顧客のLTV(注3)の向上へと寄与させることができています。このようにマーケティング効果を最大化する狙いであれば、多様なブランドを幅広く買取する仕組みはユーザーにとって利便性が高いです。つまり、二次流通事業においては「どのような目的やコンセプトのもと、サービスを実装するのか」が重要です。


(注3)LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)とは、顧客が自社商品やサービスを利用し企業が得る総利益

 

最後に、「Selloop」を通じて目指す展望をお聞かせください。

長谷川氏:

 「Selloop」は、商材を限定せず、企業の課題や要望に沿って二次流通事業を共創していくサービスです。また、アパレル分野に限っても、いわゆる服飾品だけでなく、鞄、アクセサリー、時計、ジュエリー、靴など、ファッション関連商材すべてを取り扱える機能を備えています。二次流通事業の機運が今後も高まっていく中で、市場参入を検討する幅広い企業に向け、目的に応じた最適な形を実現するためのサポートを行っていきたいと考えています。

【編集後記】おわりに

 今回は、B2Bで二次流通事業への参入支援を行うオークネットに取材させていただきました。近年はフリマアプリの普及に伴い、中古品の購入や利用に対する消費者の意識の変化がかなり進んでいます。同社が千趣会と手掛けた宅配買取サービス「kimawari fashion」を利用したユーザーの声からも、衣類の積極的な循環、再利用を希望するユーザーが多くいると分かりました。

 今後もグローバルで成長が見込まれる二次流通市場。それぞれの企業やブランドが自社で二次流通に取り組む「ブランドリセール」の風潮は、顧客に対するブランドメッセージの発信にも繋がります。課題として挙げられる収益化については、オークネットのような専門業者とパートナーシップを組むことで、クリアできる仕組みを生み出せるかもしれません。こうした取材をきっかけに、「売って終わりではない」ファッション業界の二次流通の可能性に取り組む企業やブランドが一つでも増えていくことを期待したいと思います。《AIL編集部 小川》

 


取材協力

株式会社オークネット
「Selloop」
https://selloop.jp/

「Selloop」のお問い合わせはこちら

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