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「渋谷PARCO × 韓国・現代百貨店」 “グローバルニッチ”で仕掛けるコラボレーションの成功戦略|独自取材

AIL編集部
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 2019年に新生「渋谷PARCO」として誕生以来、同館では2025年春より、さらなる最新性と独自性のあるカルチャー発信の強化を目指し、大型改装を実施しています。インバウンド売上も好調な中、昨年5月より実施した韓国の百貨店「THE HYUNDAI SEOUL(ヒュンダイ百貨店、以下、現代百貨店)」を運営するHyundai Department Store Co., Ltd(ヒュンダイ・デパートメント・ストア)とのポップアップイベントは、日韓のファッション・カルチャー市場に新たな熱気をもたらしました。

 韓国の“今”を体現するブランドが「渋谷PARCO」に一堂に会し、その話題性から大きな成功を収めた第一弾コラボレーションに続き、2025年4月には大阪で約3か月にわたり「THE HYUNDAI GLOBAL with nugu in OSAKA」を開催。業界をリードし続ける渋谷PARCO 店長の平松 有吾氏に、今回の日韓コラボレーションを通じて得た学びや、今後の戦略についてお聞きしました。

■今回はこの方に聞いた!

株式会社パルコ 渋谷PARCO 店長 平松 有吾氏


ひらまつゆうご●1977年生まれ、立命館大学卒。2004年パルコ入社後、渋谷PARCOで東コレブランドや路面系テナントなどの誘致、POPUP企画を担当。2010年福岡PARCO立ち上げ、パルコ初の自主編集ショップ「ミツカルストア」などを展開(福岡、渋谷、成田空港、EC)。2017年から新生渋谷PARCO準備室でコンセプト策定、リーシング、新業態開発、WEB・SNS戦略立案を担当。2019年の開業後もフロアリニューアルや宣伝、ブランディングを推進。2024年3月より現職。
 
「渋谷PARCO」公式サイト

関連プレスリリース:東京開催時からさらにスケールアップ!!THE HYUNDAI × PARCO meets DAIMARU「THE HYUNDAI GLOBAL with nugu in OSAKA」(6月24日(火)まで)

「新しい発見がある場所」という独自のブランディング 現代百貨店とのコラボレーションで学んだこと

2024年5月10日~16日に「渋谷PARCO」でポップアップを開催した
韓国アパレルブランド「NOICE」の店頭の様子(パルコ提供)

 

「渋谷PARCO×現代百貨店」というユニークなパートナーシップはどのように実現したのでしょうか?ブランド選定基準や、近年の消費トレンドも踏まえてお聞かせください。

平松氏: 2025年春の大改装にあたり、「渋谷PARCO」では全体の4割を占めるインバウンド客を強く意識し、「グローバルニッチ」をコンセプトに、他にはない魅力で海外顧客を惹きつける取り組みを続けています。その一環として、現地で厚い支持を集めている「現代百貨店」に直接掛け合い、国を超えた館同士のコラボレーションが実現しました。というのも、背景には韓国発の大手ECプラットフォーム「MUSINSA standard(ムシンサスタンダード)」をはじめとする韓国ブランドとの過去数年にわたる取り組みがあります。その実績を通じて互いの親和性を理解したことが、今回の本格的な協業へとつながりました。

 近年、訪日観光客が求める消費の質は、確実に高度化してきていると実感しています。以前はラグジュアリーブランドを目的とした来店が中心でしたが、最近では“まだ誰も知らないブランド”や“自分だけの特別な商品”を求めて来店されるなど、よりパーソナルで感度の高い購買意識へと変化しています。これは世界的な傾向でもありますが、特に訪日客の若年層化は顕著です。「渋谷PARCO」でも、デザイン・機能性の高い商品に積極的にお金を使う若い世代が増えていると感じています。

 「渋谷PARCO」は“新しい発見がある場所”として国内外で広く認識されていることが強みだと自負しています。そうした中で、私たちがコラボレーション相手を選定する際に重視しているのは、「今、渋谷PARCOを訪れるお客様と合うかどうか」という点です。一般的な流行や知名度といった基準ではなく、あくまでお客様の感性に照準を合わせた選定を行っています。今回の「現代百貨店」とのコラボレーションにおいても、より洗練されたデザインや、他では得られない一歩踏み込んだ要素、付加価値のある商品を求めるお客様を意識して、参加ブランドを選定しました。

韓国・ソウルの汝矣島(ヨイド)にある
「THE HYUNDAI SEOUL(現代百貨店)」本店(パルコ提供)

 

第一弾の「渋谷PARCO×現代百貨店」コラボレーションは大きな話題を呼びました。改めて、その成功要因はどこにあったと分析されていますか?

平松氏:成功の要因は、大きく3つあると考えています。一つ目は「ブランドインパクト」です。お客様が「渋谷PARCO」に期待するのは、機能性やデザイン性に加えて、ブランドが持つ“真の世界観”の体験です。今回はポップアップながら約20坪という十分なスペースを確保し、空間構成や商品のボリューム感を演出。ブランド本来の世界観を体現することにフォーカスしました。

 二つ目は、「運営面での連携」です。ありがたいことに、韓国のアパレルECプラットフォーム「nugu(ヌグ)」や現地ブランドの担当者が実際に来日し、店頭での接客に加わっていただけたことで、よりリアルで没入感のあるブランド体験を提供できました。

 三つ目は、強みである「デジタルコンテンツの成果」です。SNSを中心としたデジタルプロモーション戦略に注力しており、韓国の各ブランドとも高いシナジーを発揮できました。双方にとって新たな顧客層へのリーチが実現できたことは大きな成果だったと捉えています。

第一弾、第二弾とブランド選定を行う中で、特に重視したポイントは何でしょうか?

平松氏:第一弾では「インパクトの創出」と「売上の最大化」を主な目的に掲げました。「Matin Kim(マーティン・キム)」や「MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD(マリテ・フランソワ・ジルボー)」など、日本国内でもすでに高い認知度と支持を得ている9ブランドを中心に構成しました。大きな反響が得られ、販売傾向などを掴むことができ、第二弾では「現代百貨店」との親和性や手応えから、将来性のある「ネクストブランド」の発掘・導入に主軸を置きました。「情報発信力」を重視し、7ブランドを厳選しました。中長期的に次の企画へとつなげていくため、定性的な視点からもアプローチしました。

イベントは大盛況を収めた(パルコ提供)

チャレンジングなコラボレーションこそ、大きな学びの機会になる

 「現代百貨店」との協業を行う中で、カルチャーや業務習慣の違い、あるいは課題を感じた場面はありましたか?

平松氏:文化的背景の違いが交渉の場面に表れたこともありましたが、「渋谷PARCO」では、独自性の高いアイテムを扱うブランドとの交渉経験を踏まえ、その都度丁寧なコミュニケーションを重ねることで最終的に双方が納得できる着地点を見出せるよう努めました。前例のない新しいコラボレーションを創出するために粘り強く意見を交わし合う姿勢は、今後もグローバル市場で戦っていく上で不可欠なマインドセットであると実感しています。

コラボレーションを通して、ビジネス面で得られた収穫とは何でしょうか。

平松氏:特に実感したのは、韓国市場におけるブランドの「新陳代謝の速さ」です。韓国のブランド自身がこれを課題としてとらえていることが印象的でした。この姿勢に触れたことで、私たちとしても今後は長期的な視点からビジネスを構築していく重要性を認識するに至りました。単発的な売上を追うのではなく、未来につながる取り組みとして、企画をいかに育てて進化させていくか、そのスタンスへの転換が大きな収穫の一つです。

 現場レベルでも、韓国側の空間演出力の高さには大きな刺激を受けました。韓国では大型のモニターが比較的安価で導入できることもあって、強いインパクトを与えるVMDを活用した演出が得意かつ主流です。大胆なビジュアルをSNSやECコンテンツと連動させることでブランドのイメージがより伝わりますし、店舗体験への落とし込み方にも多くを学びました。さらに、セレクトショップ型の展開である「HEIGHTS(ハイツ)」の企画では、90年代の裏原宿カルチャーを彷彿とさせるような独特なエモーショナルな演出に成功。単一ブランドとは異なる売場づくりのアプローチの可能性を探るうえでは、有意義な試みとなりました。

 また、コラボ期間中は来店客層にも明確な変化が見られました。これまで接点の薄かった10代の若年層から50~60代も来店し、客層の幅が広がったことも大きな成果です。経営と現場の両面において、今回の「現代百貨店」との取り組みは、韓国をはじめとするアジア圏の次世代ブランドとのパートナーシップ構築に向けた貴重な知見と経験を得る機会となりました。

セレクトショップ型の企画「HEIGHTS」のポップアップの様子

積極的なコラボレーションで、ファッション感度が高まる顧客に新しい価値提供を

改めて、「渋谷PARCO」が考えるコラボレーション成功の秘訣、勝算とは何でしょうか?

平松氏:やはり、ブランドが持つストーリーや世界観をいかに尊重して表現できるかが、最も重要なポイントだと考えます。“売れそうだから”という理由で安易に組んでしまうと、結果的にブランドの価値を損ないかねません。私たちが大切にしているのは、それぞれの背景や想いが共鳴し合い、相乗効果を生み出せるようなコラボレーションです。これは建て替え前から一貫して取り組んできた、「異なる背景を持つ存在同士をつなぎ、新しい価値を創出する」という姿勢にもとづいています。最近では、私たちの側から積極的にブランドへアプローチし、マッチングを提案するケースも増えています。

 今後、韓国以外の海外ブランドとのコラボレーション企画や展望はありますか?

平松氏:国籍を問わず「グローバルニッチ」に当てはまる企業やブランドとの取り組みは実施しており、今後も積極的に開発していきたいと考えています。2025年6月には、スウェーデン発のコレクションブランド「OUR LEGACY(アワー・レガシー)」が新たにオープン。ファッション業界の慣習に乗っ取らない独自の姿勢を貫いているブランドなのですが、そうした将来性がある斬新な取り組みを行うブランドを日々探してアップデートを図っています。これまでの取り組み実績から得た「渋谷PARCO」ならではの独自の成功パターンを武器に、“常にゲリラ的な存在”として、これからも世界に向けて発信していきたいと思います。

大阪3館で約3か月にわたり開催された「THE HYUNDAI GLOBAL with nugu in OSAKA」のポップアップの様子。
各館で合計21ブランドが週替わりで展開された(2025年5月編集部撮影)
 
デザイナーズバッグブランド「carlyn(カーリン)」の店頭(心斎橋PARCO

 

画像左:デザイナーズバッグブランド「Stand Oil(スタンドオイル)」の店頭(大丸心斎橋店
画像右:日本初出店「BROWNYARD(ブラウンヤード)」(大丸梅田店) の店頭(画像:編集部撮影)

 


東京開催時からさらにスケールアップ!!THE HYUNDAI × PARCO meets DAIMARU「THE HYUNDAI GLOBAL with nugu in OSAKA」

株式会社パルコは、グループ会社である株式会社大丸松坂屋百貨店とともに、「現代(ヒュンダイ)百貨店」とタイアップし、心斎橋PARCO、大丸梅田店、大丸心斎橋店の3館で大阪キタ・ミナミエリアにて大規模な「韓国ファッションブランドPOPUP」を2025年4月4日(金)〜6月24日(火)までの約3ヶ月にわたり展開します。

詳細:株式会社パルコプレスリリース

 

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