本日4月22日は「EARTH DAY(アースデー、地球の日)」です。この日に向けて、毎年3月中旬頃から、世界中のさまざまな企業が地球環境に配慮した取り組みを発信します。こうした「EARTH MONTH(アース月間)」において注目したいのが、米国の大手リセールプラットフォーム企業のThredUP(スレッドアップ)が発表する『Resale Report 2025(2025年度リセールレポート、以下リセールレポート)』です。
年々、リセールビジネスや中古品に対する企業・消費者の関心は高まっており、特にここ1~2年は、ブランドが主体的に自社の中古品を店舗やオンラインで再販する、いわゆる「自社二次流通(オウンドリセール)」の取り組みも多く見られるようになりました。本記事では、3月19日に発表された第13回目となるリセールレポートから、世界規模で成長を続ける中古アパレル市場(注1)の最新動向と、前年版との比較から見えてきた2025年度の兆しをピックアップして紹介していきます。
後半では、リセールレポート内の「ベストセラー&新星ブランドランキング」も紹介していますので、ぜひご覧ください。
(注1)リセールレポート内の「アパレル」とは、テキスタイルを元に⽣産される⾐類、バッグや帽⼦などのファッション装飾⼩物を指す。靴は含まれない
関連記事:<前年度リセールレポート解説>2028年までに54兆円規模に上る世界アパレル中古市場 スレッドアップリセールレポート2024速報【ThredUP Resale Report 2024】
2025年全体の見通し―リセール市場は堅調に成長
ThredUPが発表した最新のリセールレポートによると、「世界の中古アパレル市場は2029年までに3,670億ドル(約53.9兆円)に達する」と予測されています。その成長スピードは、アパレル市場全体の2.7倍にのぼると見込まれており、前年のレポートで示されていた「3倍速」からはやや鈍化しているものの、依然として著しい成長が続いていることが読み取れます。現在、中古アパレル市場はアパレル市場全体の約9%を占めており、今後5年間で年平均10%の成長率が見込まれています。このまま推移すれば、2029年には前述の3,670億ドル規模に達するという見通しです。
世界の中古アパレル市場の今後の見通し(『ThredUP Resale Report 2025』より生成AIで翻訳)
また、二次流通が特に浸透している米国市場でも、中古アパレルの成長は引き続き堅調です。年平均9%の成長率で推移し、2029年までに740億ドル(約10.8兆円)に達するとの予測が示されています。特に注目されているのが、オンラインリセール市場の動向です。
ThredUPの最高戦略責任者であるAlon Rotem(アロン・ロテム)氏は、「2024年のオンラインリセールは2年連続で加速成長し、パンデミック後の2021年以来見られなかった水準に達している」とコメント。オンラインリセールは年平均13%の成長率で推移し、2029年には現在のほぼ2倍にあたる400億ドル(約5.8兆円)の規模に達すると見込まれています。つまり、今後5年以内に米国の中古アパレル品の約半数がオンライン上で取引されるようになると推察されています。
さらに、レポートによると、2024年に中古アパレルを購入した消費者の割合は過去最高の58%に達し、前年比6ポイント増となりました。また、Z世代・ミレニアル世代を中心とする若年層の48%が「アパレルを購入する際にまず中古品を検討する」と回答しており、2022年から7ポイントの増加となっています。こうしたデータからも、中古品への心理的ハードルが年々下がっていることが明らかです。
「中古品を買う理由トップ5」(『ThredUP Resale Report 2025』より生成AIで翻訳)
2025年度の注目点①|リセールビジネスは、関税問題へのリスクヘッジとなる?!
ここからは、2025年度リセールレポートから見えてきた新たな視点やアップデートを抜粋して紹介していきます。
まず注目したいのが、米国における関税問題とリセールビジネスの関係性です。最近、トランプ米大統領による「相互関税」政策案が話題となっています。ThredUPの調査によれば、米国の小売業経営層の80%が、「関税や貿易に関する政府の新たな政策により、サプライチェーンの混乱が生じる」と予想。また、消費者の62%が「そうした影響によって衣料品価格が上昇するのでは」と懸念を示しています。
国際的に展開する小売業者にとって、関税など外的要因による経済の不安定化は、サプライチェーンの見直しやビジネスモデルの再構築を迫る要因となります。そうした中、リセールビジネスは“関税リスクに対する有効なヘッジ手段になりうる”との期待が高まっています。
ThredUPのアロン・ロテム最高戦略責任者は次のように語っています。「リセールビジネスは、実質的にサプライチェーンを“国内化”できる。なぜなら、すべての衣類はすでにアメリカ人のクローゼットに存在しているからだ。」こうした発言からも、リセールが新たな物流モデルとして国際貿易の影響を受けにくい持続可能なビジネスとして注目されていることがうかがえます。
2025年度の注目点②|AIインパクト―中古・新品のショッピング体験のギャップを埋める
「AIが中古・新品のショッピング体験のギャップを埋める」(『ThredUP Resale Report 2025』より生成AIで翻訳)
もう一つの注目トピックは、AIの進化が中古ショッピングの体験価値を大きく変えているという点です。調査によると、消費者の49%が、「中古品でも、トレンド商品を新品同様に見つけられるなら、もっと購入したい」と回答。若年層ではこの割合が60%に達しており、中古品に対する抵抗感の低下が顕著です。しかし一方で、30%の消費者がオンラインでの中古品探しに“圧倒されている”と感じており、40%が“選択肢が多すぎて戸惑う”と回答。特に若年層においてその傾向は顕著です。
そんな課題を解決しつつあるのが、AIによるレコメンド機能や検索体験の最適化です。調査では、48%の消費者(若年層では59%)が「AIのおかげで、中古品も新品と同様に選びやすくなった」と実感していると回答。デジタルネイティブ世代を中心に、AIの存在が中古ショッピングのハードルを引き下げているといえるでしょう。
また、小売業界全体においてもAI導入の流れは加速しています。調査によれば、小売業界の経営層の78%がすでにAIに投資しており、その半数以上が“多額の投資”と回答。さらに、今後1年以内にAIツールを導入予定と答えたのは58%、62%が「AIは中古品ショッピングの魅力向上に貢献する」と見ています。
今後、AIがリセール市場における検索・パーソナライズ体験を強化し、中古品購入の心理的障壁を一層取り除くことで、リセール市場の成長を後押しする流れはますます強まっていくと考えられます。
どれだけ知っていますか?注目ブランド5選―2025年版ベストセラー・新星ブランド(2024‐2025比較)
ベストセラーブランド1位となった「Vuori」(公式サイトより)
「ThredUP」のマーケットプレイスで展開されている60,000ブランドの中から、2024年1月1日~2024年12月31日の期間におけるベストセラーと新星のブランドを紹介するブランドランキング(注)。
今年は、前年度1位だった「lululemon」を押さえ、「Vuori」がベストセラーの座に。昨年のAILニューヨーク視察でも注目株だったカリフォルニア発パフォーマンスアパレルブランド「Vuori」は、昨年3位からの見事な躍進を遂げました。また、売上率と前年比増加率に基づいた総合スコアで算出される新星ブランドランキングでは、米国発のカジュアルウェアブランド「The Limited(リミテッド)」が1位にランクイン。ラグジュアリーブランドでは唯一「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」が3位と、上位10位以内にランクインしています。
ベストセラー・新星ブランドランキングの1位~5位をそれぞれ紹介していきます。
(注)ベストセラーランキングは「ThredUP」マーケットプレイス内の 60,000 以上のブランドを、2024年1月1日~2024年12月31日の期間において、売上高・売上数量に基づいて総合スコアを算出し、ランク付けしたもの。また、新星ブランドランキングは、同期間において、売上率と前年比増加率に基づいて総合スコアを算出し、ランク付けしたもの。
関連記事:lululemon(ルルレモン)の牙城を崩せるか?! アスレジャーブランド「Vuori(ヴオリ)」 新資金調達で評価額8,600億円に到達
「Vuori」ニューヨーク・ソーホー店の内観(編集部撮影)
ベストセラーブランドランキング
1位 Vuori(ヴォリ) <▲前回3位>
2位 Lululemon Athletica(ルルレモンアスレティカ) <▼前回1位>
3位 Quince(クインス) <▲前回16位>
4位 Reformation(リフォーメーション) <=前回4位>
5位 Sezane(セザンヌ) <▲前回8位>
6位には前回同値の「Patagonia(パタゴニア)」、7位には前回5位からランクダウンした「Free People(フリーピープル)」がランクイン。また、10位には人気急上昇のアスレジャーブランド「Alo Yoga(アローヨガ)」、11位には「Birkenstock(ビルケンシュトック)」が初ランクインするなど、ここ1年間で「ThredUP」を利用してオウンドリセールに参入した新たなブランドが20位中6ブランド含まれていた点が特徴的です。
3位にラインクインし、前回16位から急上昇した「Quince(クインス)」は、2018年に米国サンフランシスコで設立されたライフスタイルD2Cブランド。高級ブランドでキャリアを積んだ創業メンバーが「良いものは高価でなければならない」という既存の固定観念打破に挑戦するため、「M2C(メーカーから消費者へ)」という新しいモデルやサプライチェーンの効率化で中間コストを削減し、高品質な商品を低価格で提供。高品質な素材を使用した、手頃なアパレルやホームグッズで人気を博しています。
リネン、オーガニックコットン、シルクなど上質な素材のアイテムが手頃な価格帯で並ぶ「Quince」(公式サイトより)
新星ブランドランキング
1位 The Limited(リミテッド)
2位 Sanctuary(サンクチュアリ―)
3位 Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)
4位 SPANX(スパンクス)<▼前回2位>
5位 Champion(チャンピオン)
「ThredUP」では約5,700点の「The Limited」の中古品が再販されている(「ThredUP」公式オンラインより)
▼2025年度版「ベストセラー・新星ブランドランキング」(『ThredUP Resale Report 2025』より引用)
▼【比較】2024年版「ベストセラーブランド・新星ブランドランキング」(『ThredUP Resale Report 2024』より引用)
まとめ|リセール品は“当たり前”の時代へ―価格以外のリセールバリューの訴求がカギに
新品と同様に中古品と出会う機会が増え、リセール市場は確実に成長フェーズへと移行しています。しかしながら、依然としていくつかの課題も残されています。ThredUPのアロン・ロテム氏は、「オンラインでのリセール市場の成長は、ファストファッションの成長と並行して進んでいる」と指摘。また、「環境意識が高いと自認する人々の中にも、ファストファッションを多く購入している層が存在する」とも述べています。こうした相反するファッションの潮流が競合関係にある背景には、どちらの選択肢も『新品より安価』という共通項があるためと考えられます。
近年のAI進化により「新品と同じくらいスムーズに中古品を購入できる」環境が整いつつある一方で、消費者の購買判断においては依然として「価格」が大きな要因であることは変わりません。だからこそ、今後リセールビジネスを推進するブランドには、単なる価格訴求に留まらず、「中古品を購入する意味や価値」を、環境・社会・スタイルなど多角的な観点から伝えていく姿勢が求められるのではないでしょうか。
参考:
https://www.thredup.com/resale
https://www.retaildive.com/news/thredup-2025-resale-report-tariffs-fast-fashion/743095/
執筆者
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APPARELWEB INNOVATION LAB.|アパレルウェブ・イノベーション・ラボ
アパレルウェブ・イノベーション・ラボ(AIL)とは、ファッション・小売関連企業の経営層に向けて“イノベーションのヒント”を届けるため、アパレルウェブが2017年10月にスタートした法人会員制サービス。小売、メーカー、商社、デベロッパー、ベンダー企業など幅広い企業会員が集うコミュニティでは、各種セミナーや交流イベントを定期開催。メールマガジン、Webメディア、会員レポート冊子などを通じて毎週オリジナルのビジネスコンテンツを発信。
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