Web3とは何なのでしょうか。テクノロジー業界ではWeb3の定義についてさまざまな論説や意見がありますが、Web3領域の代表的な企業や組織(「Coinbase(コインベース)」「Web3 Foundation(Web3ファウンデーション)」「Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)」など)による主流な見解をまとめると、Web3とは“ブロックチェーンを中心とした一連の技術革新による次世代インターネット”の概念です。現状のインターネットは、GAFAを筆頭とした巨大プラットフォーマーがさまざまなビジネスを展開しています。私たちがこれらの巨大企業のサービスを利用するたび、個人データやデータ活用の権利が一部の企業に集約され、その結果、GAFAなどの巨大ITプラットフォーマーに権利が集中する中央集権型の構図ができあがっています。
そこで、ブロックチェーンの技術によって、現在の中央集権で成り立っているインターネットの構造を解体させることがWeb3の中核概念です。ブロックチェーン技術とは、特定の国、企業、組織に依存せずオープンにデータを管理する技術です。この技術を用いることで、ユーザーデータを特定の企業のクラウドサービスのみに保存するのではなく、世界各地で分散されている、不特定多数のユーザーコミュニティで共同管理することが可能となります。
Web3はまだ黎明期だと言われていますが、NFT、メタバースのほか、数年前からさまざまな分野で関連サービスが稼働し始めています。分散型金融サービスと呼ばれる「DeFi(ディーファイ)」などは一例です。まだ実験段階の技術ですが、前述したように、銀行や取引所など特定の組織の仕組みを介すことなく、利用者間で資金の貸借、投資活動が可能となる技術として注目されています。
新しい技術から派生した「トークン経済」の可能性に注目
「Defi」などブロックチェーンを生かした技術の活用はさらに広がり、現在ではゲーム、SNS、個人信用スコアを生かした消費者金融、組織マネジメントサービスなど、さまざまな領域で活用され始めています。このように、ブロックチェーンによって、新しいビジネスやWeb3の経済圏、仕組みが徐々に生まれつつあります。
なかでも今回注目したのは「トークンエコノミー」(またはトークン経済)です。「トークン」とは「通貨の代わりになるもの」を指し、通貨のように「トークン」を交換して経済活動を行うことを「トークンエコノミー」といいます。
そもそも貨幣の本質は「信用」の貸し出しです。日本円は日本銀行が発行し、日本政府が管理しているため、日本円の信用が担保されています。では「トークンエコノミー」における「トークン」の信用はどのように保たれるのでしょうか? 実は政府のような中央管理者がいない代わりに、ブロックチェーン上で「トークン」を発行する企業とその「トークン」を保持・売買しているユーザーが一緒に管理することで、信用が保たれるようになるのです。
仮に「トークン」を発行する企業が何らかの原因で管理を行えなくなったとしても、分散して管理されているため「トークン」の安全性は保たれます。さらにその管理はブロックチェーン上で行われ、ゆえにデータの偽造や改ざんは難しく、不正を防ぐことにつながるのです。
また、画像や音声などのデータに対しても、ブロックチェーン上では貨幣のような信用を付与することが可能です。そしてそれらのデータは「トークン」で売買され、「トークンエコノミー」が実現されることになります。こうしたブロックチェーンによる新しい経済発展の可能性が注目され、近年では先進企業が次から次へWeb3領域への投資、新規参入を開始しています。
ここまで「トークンエコノミー」の仕組みとメリットについて説明しました。中央集権管理ではなく分散型管理であること、セキュリティ面に優れていることなどの特徴がありましたが、ほかに考えられる「トークンエコノミー」の仕組みとメリットを紹介します。
これまで企業は新しい取り組みを行う場合、株式による資金調達や新しい人材の採用といった方法をとってきました。なかには自社の株式を提供することで新しい技術に長けた優秀な人材を確保する場合もありました。今後はそのような状況において、株式の役割を「トークン」が果たす可能性が生まれます。
人材採用とまでいかなくとも、一部の技術を提供する外部委託への報酬として利用できる手軽さも「トークン」のメリットです。そのような「トークン」を介した関係構築が「トークンエコノミー」では可能になり、個人と企業のコミュニケーションやコミュニティ形成が活発化することが考えられます。
利益分配の仕組みでブランドとユーザーにWin‐Winをもたらす「トークンエコノミー」
ここからは「トークンエコノミー」が企業とユーザー双方にもたらすメリットを、国内外の事例を交えながら解説していきます。
まず、そもそも「トークン」を利用するユーザーがいなければ「トークンエコノミー」は成立しません。反対に「トークンエコノミー」は多くのユーザーが参加し、「トークン」がコミュニティで利用されることによって活性化します。要するに「トークンエコノミー」においては、ユーザー数やアクティブ率などといった参加ユーザーの影響力が大きいのです。そのため「トークン」を発行している企業は、自社サービスを向上し、ユーザーにとって心地良いコミュニティ形成に努め、貢献したユーザー(たとえば、SNSで「トークン」を紹介するなど)に対して「トークン」を介して還元するといったインセンティブを設けることで、ユーザーと信頼関係を深める必要があります。
このように「トークン」の価値向上にはユーザーのアクションが大きく影響し、そのためユーザーには多くのメリットがもたらされる可能性が生まれます。
一方、企業に「トークン」がもたらすメリットとは何でしょうか? 大きくは2つあります。1つはコミュニティの構築と維持コストが下がることです。
先述したように、コミュニティの構築自体がブロックチェーン(パブリックチェーン)で行われるため、データベースなどの維持コストが発生しません。また「トークンエコノミー」はブロックチェーン上で運営されるため、取引時には決済や取引履歴の記録も自動的に行えるようになります。それにより人的資源のコストが省けるようになります。
もう一つのメリットは、企業のコミュニティに参加しているユーザーの貢献(商品の購買、共同制作、SNSでの拡散など)に対し、還元するインセンティブにバリエーションや柔軟性を出すことができる点です。
たとえば、ファッション企業Aがあるとして、ユーザーがその企業Aの商品についてレビューを書いたとします。この行為は、ファッション企業Aにとっては「貢献」と言えます。現在はこのような「貢献」に対する企業からのインセンティブとして一般的なのは、ECで利用できるポイントやクーポン券などの配布です。クーポン券などの場合は往々にして有効期限があり、有効期限を過ぎてしまうと、ユーザーにとっても発行企業にとっても機会損失となります。そこで「トークン」のメリットが活躍します。
「トークン」はブロックチェーン上に存在するため、ブロックチェーンが消滅しない限り、ユーザーは半永久的にいつでも「トークン」を利用できることになります。また、ユーザーの貢献度に見合う細かなインセンティブを設計しながら「トークン」を制作することも可能です。ユーザーがブランドのSNS投稿に“いいね!”した、というような比較的手軽な「貢献」に対しても、1ポイント、2ポイントというような評価を付与することができます。従来は、このようなユーザーからの些細な「貢献」を正しく評価する仕組みは多くありませんでした。この柔軟性がもう1つのメリットになります。
企業は「トークンエコノミー」の活性化に向けて詳細な設定を行うことができるため、ユーザーにとっても納得感のある参加メリットを打ち出すことができます。ユーザーは参加するだけで還元の期待ができ、同時に、参加者を増やして盛り上げることで受け取った「トークン」の価値を高めることもできます。そして、このような好循環を確立することが「トークンエコノミー」の成功の一例なのだといえるでしょう。健全な「トークンエコノミー」では、ユーザー、企業にとってWin-Winの関係性を創造することができるのです。