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「Rothy’s(ロシーズ)」にみるリアルイベントの変化 顧客エンゲージメントも進化が求められる時代に【Coffee Talk from NYC Vol.18】

ニューヨーク現地より、小売×テック関連の旬なトピック・体験レポートをお届け。アメリカのコーヒーブレイク中に行われるカジュアルミーティング、”Coffee Talk”にちなんで、気軽にインプットいただけるレポートを定期配信していく。
Vol.18では、4月の「EARTH MONTH(アース月間、アースデー月間)」にちなんで、「Rothy’s(ロシーズ)」のイベント例をはじめ、ここ最近筆者が感じるブランドの取り組み状況や人々の意識の変化を紹介していく。
アメリカでは、4月は「アース月間」として、1ヶ月間にわたってこれまでの1年間の環境への取り組み(温室効果ガスの排出量の抑制、いわゆるカーボンオフセットがどの程度実現したか等)の報告や、オンライン・店舗両軸の関連イベントが実施される。
この「アース月間」、そして4月22日の「EARTH DAY(アースデー)」を意識して過ごされた方がどのくらいいるだろう。
今年の4月の様子から筆者が感じたのは、「アース月間」の関連イベントに取り組むブランドの“減少”だ。正確に数えてはないが、「例年と比べて今年はイベントが少ないのでは?」と現地の同業者間でも話題になったほど。そのような中、今年は以前から筆者が興味を持っているフットウェアブランド「Rothy’s」が、「アースデー」当日にソーホーの店舗でイベントを開催するとの情報を得たので、早起きをして駆けつけてみた。
「Rothy’s」店舗イベントの概要
- 実施日 :4月22日 午前10時(現地時間)
- 開催店舗:ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ(各1店舗)
- 内容 :先着100名限定、使用済みのプラスチックボトルを持参し、「Rothy’s」の靴と交換しよう!
平日にも関わらず、大盛況の「Rothy’s」ソーホー店舗前
今回の「Rothy’s」店舗イベントでは、「Break Free From Plastic Pollution Act(プラスチック汚染法からの脱却)」の認知を広めるというメッセージが含まれていた。
この政策は、2020年に導入された政策で、米国内のプラスチック汚染に対処するための最も包括的なアプローチだと考えられているそうだ。この政策が通ることで、例えば、リサイクル不可能な使い捨てプラスチック製品の禁止や、発展途上国へのプラスチック廃棄物の輸送禁止などを含む、環境課題改善に向けたさまざまなゴールが実現される。
パンデミックを経て、制限付きの生活から解放された私たちは、自然との触れ合いや人々とのつながりなどリアルの素晴らしさを再確認した。そうした状況において、特に筆者が感じているのは、オフラインイベントの変化だ。特に以前との違いを感じる一つに、「無料」と称するものへの執着心がある。
ニューヨークで開催されるブランドのイベントでは、体験だけでなく、必ずといっていいほど「無料」と名の付くサンプルやドリンク(大抵はバリスタが作るコーヒーやカフェラテ)の配布がスタンダードとなっている。以前から、ポップアップショップやキャンペーンイベントは人気があったものの、最近は”加熱しすぎている”と感じてしまうほど、人々は競うように参加している様子が見受けられる。
列の先頭の集合時間に驚愕!
今年の「アースデー」は月曜日。週末ではないため、もし行列となっても耐えうる範囲だろうと予測していた。筆者は開店の1時間ほど前に、 「Rothy’s 」店舗があるソーホーに到着。地下鉄を降り、小走りに店舗へと向かった。
店舗はプリンスストリートに位置し、エリア周辺には「EVERLANE(エバーレーン)」「CUYANA(クヤーナ)」「FAHERTY BRAND(ファリティ・ブランド)」など多数のD2Cブランドが出店する。
歩道に並ぶ長蛇の列
プリンスストリートに入ると、すでに遠くに人の塊が見えた。さらに小走りで店先へと向かうと、その行列は角を曲がり、店舗から半周近くまで続き、列の最後尾へ向かうときには、すでに100人以上が並んでいるように感じた。筆者の後にも、最後尾へ向かう人は絶えず、とりあえず並んでみることにした。
後方に30代くらいの女性が1人で並んでいた。「100名限定の商品とは別に、何か貰えるか知ってる?」と彼女に声をかけると、さらに後方の人たちも加わりブランドや最近のイベントについて話が盛り上がった。結局のところ、先着100名のサービスは終わり、その後は20%オフのプロモーション配布となったが、それでも手に入れた人は満足そうだった。
堪え性のない筆者は10分もせずに列から離脱し、長蛇の列の先頭へ向かってみた。すると、そこには友人同士と思われる20代の男女の姿があった。好奇心から「私はいま来たところなのだけど、何時から並んでいるの?」と尋ねると、その回答に驚愕! なんと早朝5時から並んでいるというのだ。「最近のイベントって、以前よりもすごく並ぶよね?」と会話を続けてみると、「そうだね」と、そこまで気にしていないような回答が戻ってきた。開店10時の店前に、早朝5時から並ぶというのは、もはやブラックフライデー並みである。
「Poshmark(ポッシュマーク)」×「Rothy’s」ライブイベント デジタルで開催されたイニシアチブ
「Poshmark」が開催した「アース月間」イベント「Posh for the Planet」(公式ブログより)
オンライン・リセールマーケットプレイスの「Poshmark(ポッシュマーク)」では、今年の「アース月間」において、週に3度、最も熱心なファンとエンゲージできる機会をサステナブルブランドへ提供していた。「アースデー」前日の21日には「Rothy’s」も同取り組みに参加。ライブショッピングイベントを開催していた。「Poshmark」のリリースによれば、同サービスのユーザー間では、持続可能な素材とブランドへの関心がますます高まっているということだ。
「Poshmark」による「アース月間」のイベントカレンダー。
ショッピングイベントの総売上の10%は同社の植樹の取り組みに寄付される(公式ブログより)
特に「Pact(パクト)」が168%増、「Rothy’s」が51%増、「Christy Dawn(クリスティ・ドーン)」が51%増と、特定のブランドは過去2年間で急激な人気を博し、急成長しているそうだ。また、ユーザーは、「オーガニックコットン(102%増)」「100%ウール(62%増)」のように、フレーズで検索する機会が増加。リユースという観点だけでなく、素材への関心にも変化が見られる。
今回の「Rothy’s」のイベントは、ブランドには関心があるがまだ所有していない、もしくは購入できる環境にいない人、いわゆる新規顧客に確実にリーチできたように思える。さらにいうと、もし仮に「Rothy‘s」が自社でブランドリセールを実施していたとしたら、(新品ではなく)まだ履くことのできる靴と不要なペットボトルを交換するイベントとして開催することもできたのではないかと、帰路で筆者はふと考えた。
最近こうした「無料」と称されるものに飛びつく人が確実に増えた。集客ができても、彼らが本当にブランドに関心を持っているのか、ターゲット顧客となりうるのか、これまでのマーケティング手法では判断が難しい時代がやってきているのをひしひしと感じる。
参照:
執筆者
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RINA Yoshikoshi
NYC在住ブランド、テクノロジー系ライター / コンサルタント
NYを拠点にブランド、リテール、ウェルネス、D2CのCPGブランドの現地市場を調査。店舗で導入される最新テクノロジーや米国での先進事例なども研究。執筆活動、リソースを元にしたマーケティング&ビジネスコンサルティングやアドバイザリーも行う。
関心: #テクノロジー #NFT #WEB3 #ウェルネス #未来の街作り