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AILイノベーションノートVol.2|直接関わり、同じ目線で話すことでターゲットを「知る」産学連携を通じてZ世代と向き合う「ビームス」
会員企業様のイノベイティブな取り組みを紹介する「AILイノベーションノート」取り組みから見えてくるヒントをAILコミュニティで共有し、会員の皆様と一緒に次のビジネスチャンスを探っていきたいと考えています。第2回にご紹介するのは、ファッション領域だけにとどまらず、「BEAMS JAPAN(ビームス ジャパン)」を通じた日本酒のプロデュースや、異業種や地方自治体との協業など、多岐にわたる事業を手がける大手セレクトショップ「ビームス」。
2020年にはZ世代に向けたEC専用レーベル「BeAMS DOT(ビームスドット)」をローンチするなど、若者世代をターゲットとした発信も積極的に行っています。今回は、同社のカスタマーエンゲージメント本部(以下、CE本部)が行っている、桃山学院大学との産学連携で得た知見や取り組みの狙いについて、CE本部 デジタル部 ブランド課 課長の青柳 剛氏にお話を伺いました。
青柳 剛 氏
ビームス カスタマーエンゲージメント本部 デジタル部 ブランド課 課長
1997年入社、渋谷、新宿、横浜などの店舗で販売スタッフを経験したのち、2010年に「ビームス 銀座」でショップマネージャーに就任する。その後、店舗販促部門や複数店舗をマネジメントするスーパーバイザー職などを経て、2021 年 9 月より現職。
ビームス公式サイト https://www.beams.co.jp/
デジタル上における「顧客化」のヒントを得るために
―今回、「産学連携」に取り組むことになったきっかけと、取り組みを通じて得ようとしていることについてお聞かせください。
青柳氏:
2017年に私自身が、店舗を統括する担当の立場で、今回とは別の大学との「産学連携」に参加し、その際、学生たちから非常に多くのことを学んだという経験がありました。現在は店舗とECを束ねるCE本部のデジタル部に所属し、デジタルで買い物をするのはZ世代や若者が多いことから、若者世代の動向を知る必要性を感じていたので、今回の取り組みを実施するに至りました。
どうしてもリアル店舗に対して、デジタル上ではブランドの顧客化が進みにくいことを私の所属するデジタル部では、課題と捉えています。中でも、ECモールを利用し他のブランドと比較しながら商品を選ぶライトユーザーには、若年層が多くいらっしゃいます。そのため、部としても、若者世代の考え方や行動を知るために日頃から意識してEC運用に取り組んでいます。
取り組みの起点は、ECを担当する私自身が、若者世代を担当業務とは異なる視点から知りたいという思いからだったのですが、当社においてデジタルの活用はECのみならず店舗のスタッフにも必要という考えのもと、デジタル部の上位組織であるCE本部まで幅を広げて、ECと店舗で実務を担う若手メンバーを中心とした約10名で参加スタッフを構成しました。それぞれ異なる現場にいるスタッフが同じプログラムに参加することは、本部全体の将来的な知見の蓄積や取り組みのヒントにも繋がるのではと考えています。
「産学連携」の講義のようす
―「産学連携」は実際にどのような内容で行われ、「ビームス」のメンバーはどのように関わっているのでしょうか?
青柳氏:
「産学連携」の内容としては、大学側が設計する授業のクライアントとして「ビームス」のCE本部があり、私たちが指定するテーマに対する提案を、学生のチームが、全15コマの授業を使って練り上げていきます。最終プレゼンに向けての過程をプロジェクトと捉え、チームビルディングからスタートし、チームメンバー間でフィードバックをし合う経験などを重ねながら、リーダーシップやビジネスのスキルを高めていくというものです。ほぼ各回で行われるグループワークでは、「ビームス」のメンバーは関われる場面で積極的に学生と関わり、同じ目線で「互いに学び合う」ことを意識して参加しています。
今回、テーマとしては、CE本部が考えたい内容に沿って学校側と話し合い、「2030年の未来のビームス店舗を提案してください」と設定しました。
このテーマのもと、全7クラスで、「“ビームスの社員になったつもり”でデジタルを駆使した提案をしてください」「2030年の世界を構想して、ビームスがどのような価値を提供できるか提案してください」というように、具体と抽象を織り交ぜた問いかけを、クラス担当の教員や私たちで行いながら学生のアイデアを引き出すようにしています。
「ビームス」メンバーと学生のグループワークの様子
―なるほど、ミクロとマクロの視点を兼ね備えたテーマ設定ですね。実際にプロジェクトが進む中で出てきた学生のアイデアやプレゼンは、どのように今後の展開に活かしていくのでしょうか。
青柳氏:
この「産学連携」の取り組みは、「我々が持つ知見」と「若者が持つ考え方」のギャップを知るということが狙いです。ですので、そのギャップを体感すること自体が主たる目的であって、学生のプレゼン案を実務に取り入れようということは考えてはいません。
今後、「ビームス」のスタッフとして10年、20年先を見据えた「構想」が必要になる中で、私たち自身が直接若者世代とフィジカルで関わり合うことによって、彼らを知っていく機会を作りたかったというのがあります。
学生と直接触れ合うことで初めて得られた気づき
―今回は大学1年生が対象と聞きましたが、講義を通じて学生と交流する中で、どのような発見や学びがありましたか?
青柳氏:
色々ありますが、例えば、私たちは1年生なら「既成概念にとらわれない、忌憚なき意見」をどんどん発してもらえるのではと考えていました。ところが、プロジェクトが始まってスタッフ内で出た感想として複数あがったのは、1年生でも意外と「自分自身の意見」を発することに抵抗があるのではないかというものでした。そのことを教員に話すと、高校時代に「正解を求める勉強」に身を置いてきた学生もいて、正解ではなく「適切」や「的確」であることを考え、「独立した思考」を求められるというのを初めて経験する成長の時期なのかもしれないとコメントをもらいました。
人が成長するということは、どうしても目の前の講師や専門家から直接教わるシーンを想像しがちですが、その方法だけではなく、他者と関わりながら成長するプロセスを目の当たりにできたことは、「ビームス」のメンバーにとっても、今回の取り組みから見えてくる一つの発見かなと思います。また、学生同士や私たちとの関わりを「学びを学びとして捉えずに」楽しんで取り組んでいる様子もみられ、それは若者らしい価値観かもしれないと今回学ばせてもらいました。
あとは個人的な感想ですが、今の若者は、物事に対してかなりシンプルかつ簡潔に考えるようで、一言で言うとミニマリストの傾向が強く、広い意味ではエシカルな存在だなと思います。ただそれは「物欲がない」ということではなく、物欲の角度が表面化しにくいものに向いていると感じます。「もの」に対して価値を見出すというより、自分の「納得」に対してお金をかけるのだと思います。私自身がセールスにも関わっているので、そのような特性を理解することは、マーケティングに基づいた「適切」な生産や販売をしていくことにも副次的に繋がっていくと思います。
「ビームス」メンバーと学生のグループワークの様子
―最後に今回の「産学連携」の取り組みを通して青柳さん自身が感じたこと、残りの講義に対して期待することをお聞かせください。
青柳氏:
セミナーや勉強会で講師や知見のある人から聞くのではなく、今回のように普段は知る機会の少ない若者世代と直接関わり、意見交換ができることは、やはりすごく重要で、今後も必要になっていくと感じています。また、私個人として若者世代のユーザーを知ることができるだけでなく、ここで参加したグループワークなどは、部内の次世代リーダーを育てる人材育成としての役割も果たすと感じています。
授業はまだ3分の1が終了した時点ですが、参加したメンバーたちがここで体感した取り組みを通じて、何かしらの学びを得て、社内業務に戻ってから力を発揮できる機会になればと思います。また、単に「売る」ということや今の「店舗の姿」に固執するのではなく、未来の「ビームス」にリンクするようなアイデアや提案に触れることができればということも楽しみにしています。
【編集後記】おわりに
今回は、AILの交流会イベントの際に、会話の中で「大学生の前で授業をするんです」というお話をうかがったことがきっかけで取材させていただきました。若い世代を知るために、直接彼らと対峙しようと、その実行スピードには、さすが“ビームス”と感嘆でした。
「実は学生のほとんどがビームスを知らなかった」という驚きのエピソードもありましたが、講義を通じて学生がブランドを知り、ブランドと一緒にファッション・小売の未来を考えるきっかけとなったことは双方にとって有意義な時間だったのではないでしょうか。そしてまたの機会に、学生とともに最終プレゼンした「10年後のビームス」や「ファッションの未来」のアイデアをお聞きできたらと思います。
取材協力
青柳 剛 氏
ビームス カスタマーエンゲージメント本部 デジタル部 ブランド課 課長
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執筆者
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AIL編集部
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